2022年 12月

 最近はあまり見られなくなりましたが、昔の家には必ず縁側がありました。縁側には出入りするという役割があり、以前はお盆のお参りなど縁側から上がらせていただくお家も結構ありました。
 縁側にはもう一つ大切な役割がありました。家族や近所の人々が自然と集う憩いの場として縁側は大活躍していたのです。そこにはいつも家族が集まり、夏にはスイカを食べたり線香花火をしたり、お月見や日向ぼっこ…と季節ごとに思い出は尽きることがありません。また、縁側は家に上がり込むのではなく気軽にちょっと腰をかけて近所の人や友人と話を弾ませる、そんな社交の場でもありました。
 正善寺が大切にするコンセプトのひとつが縁側的なお寺。履き物を脱がずに土足のまま気軽にお話をしたり寛ぐことのできるお寺です。そうした空間が正善寺には5カ所あります。お寺を必要とし、大切に思ってくださる多くの皆様とのご縁をつなぎ、楽しい会話があふれたり、苦悩を語り合ったり、共に人生や命について考えたり、今このときを生きる人々のオアシスとなれることを願ってやみません。

靴下

  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

2022年 11月

本願寺執行長就任にあたって 安永雄彦 

 築地本願寺宗務長から、このたび本願寺執行長に就任するとになりました。
 今回の執行長拝命に際して、私は大きな国内外の時代環境の変化の中で、「変化に対応する本願寺」への変革が最たる課題と考えております。戦後の高度成長期に築きあげられ、かつては世の中に貢献してきた組織制度をはじめ、多くの難局に対応してきたさまざまな制度や取り組み、さらにはこれまで培われてきた伝道布教のあり方も、大きな環境変化を前に変革を迫られています。
 誰もが現状を変えることは、自然と避けたいものであり、先送りしたいものに違いありません。しかし、何もしなければ必ず哀退してゆくのが、自然界のみならず各界に共通した歴史的な教訓であります。伝統仏教界も例外ではなく、周囲の環境が変化している現状においては、私たち自身も変化してゆかざるを得ません。
 特に大きな変化は、お寺の価値を決める主体が、宗教者を中心とした寺院の側から、受け手である門信徒の側に大きく転換したということであります。さらに、人口減少に加えて大都市圏移住を中心とした社会経済環境変化の中で、江戸時代から続くいわゆる檀家制度はもはや崩壊しつつあり、今後は家族制度を前提としない寺院運営が必要な時代になったということであります。
 浄土真宗の本質的な価値は変わりませんが、寺院や教団の価値を決めるのは、私たち宗教者ではなく、むしろ世間一般の方々や門信徒の方々、そして浄土真宗に好意を寄せるファンの方々に求められる存在となることの意義がますます顕著になってきているとうかがうことであります。
 そして今、こうした状況の中で本願寺にとって必要な目標は、第一にこれまでご縁のなかった方への伝道、つまり「新しい門信徒の創造」と考えており、それにはさまざまな「イノベーション(変革)」が必要であると感じております。私たちもいよいよ受け手の立場や目線に立って、それらの方々の思いに寄り添い、期待に応える活動が求められています。本願寺においても、これまでの対応や活動を顧みて、み教えとともに本山本願寺を後世につなげていくために、先ずは受け手中心の活動を職員と共に実践してゆきたいと考えます。             (本願寺執行長)

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以上は、我が宗門 本願寺執行長に就任した安永雄彦の挨拶文です。正善寺におきましても急激に変化していく社会の中にあって、その時代に生きる人々が求める寺院、また宗教者がどうあるべきなのかを真摯な姿勢で常に問い考え精進してまいりたいと考えております。

秋の実り

  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

2022年 10月

 最近、こども食堂のような生活に困窮されている方々や様々な事情を抱え苦しまれている方々に対してのボランティア的な活動の情報をよく目にするようになりました。福井県のテンプル食堂よしざきは、本願寺派僧侶 八幡真衣さんを中心に毎月最終日曜日に本願寺吉崎別院食堂をお借りして令和2年6月より開催。地域の食堂を目指し、子育て世帯だけではなく地域で子どもたちを見守る皆の居場所を築き上げるために活動を始めました。当初、数拾名の食事を作る活動が今では400名分のお弁当を作るまでに膨れ上がりました。そしてその拠点も多くの人々の共感を呼び5カ所に広がりました。
 また、大阪府豊中市にある小さな食堂ではとっておきのお弁当が週3回手渡されています。値段はなんと無料です。店主の上野敏子さん(54)は、2年前から生活に不安を抱えている人たちのために無料のお弁当を夜7時より提供しています。食材や容器はすべてこの取り組みに共感した人たちから届けられたものです。上野さんには3人の子どもがいます。次男の拳王(げんき)さんはダウン症で言葉を話すことができません。周囲に頼ることもできず上野さんは一人で悩み苦しみました。その後うつ病を患い、自ら命を絶とうと考えるまで追い込まれたそうです。9年前、拳王さんを預けていたこども園の園長先生との出会いが状況を一変させます。やつれていく上野さんの様子を見た園長先生は送り迎えのたび上野さんに声をかけ、ひたすら話を聞いてくれたのです。園長先生のとことん寄り添ってくれる姿勢に上野さんは元気をもらいました。話を聞いてもらうことで人の心は軽くなる。上野さんは「今度は私がしんどい思いを抱えている人たちの居場所を作りたい」6年前に大阪市内で炊き出しを始め、5年前から豊中市内でこども食堂を始め、3年前現在の食堂をオープン、そして今に至ります。
 上野さんはお弁当を渡すとき話すことをとても大切にしています。食堂には経済的な悩みだけでなく、人間関係や体調面の不安など様々な悩みを抱えた人がやってきます。そんなとき自分の食堂で胸の内を吐き出し、心を軽くしてほしい。「しんどい思いを置いて帰れる場所に」上野さんは「みんなのお母さん」と慕われ今日も食堂に立ち続けています。(NHK WEB特集より)
 すばらしい取り組みには本当に頭が下がります。ありがとうございます。コロナも少し落ち着いてきています。正善寺食堂も様子を見て再開できればと思っています。みんなの笑顔が溢れる日が楽しみです。

お月見

  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

2022年 9月

 NHK広島のコネクトで広島市立広島みらい創生高等学校が紹介されました。校名の「広島みらい創生」という言葉には、従来の定時制・通信制の課程の枠組みに捉われない新たな学びのスタイルを「広島」の地から全国に発信していくという強い思いと、生徒一人一人が教職員と共に自らの「みらい」を主体的に創り出していってほしいという強い願いが込められています。
 現在、小・中学校合わせて約29万人の長期欠席・不登校の子どもたちがいるそうです。高校に入学してもなじめず様々な理由で長期欠席・不登校を経験した後、多くの生徒が退学していくそうです。
 広島みらい創生は「いつでもやり直せる」様々な工夫に満ちた取り組みを行っています。例えば(クラスがない)理由はクラスが固定されると仲間に入れない時、居場所がなくなるといけないから。(担任がいない)チューターが卒業まで相談にのってくれ、スクールカウンセラーが人との関わり方や感情のコントロール、例えば「友人に声をかけたけど返事がない場合、すぐに無視されたと思うのではなく、もしかしたら聞こえなかったのかな?とか声をかけるタイミングが悪かったのかな?と考えてみる」など学校生活をしっかりとサポートしてくれる。(時間割が自由)朝からの授業、昼からの授業、通信制、自宅学習を自分に合った無理のない自由な組み合わせで選択できる。他にも3年間で卒業する必要がなく最長8年間在学できるなど生徒本位の工夫されたすばらしい取り組みがなされています。
 下川さんは中一の時、学校に行けなくなりました。学校に行くことのできない自分に価値はないと思い悩み摂食障害に苦しみました。広島みらい創生に入学し同じ不登校を経験した友人との出会いが彼女の転機となりました。下川さんは現在演劇部のリーダーとしてみらいに向かって自分のペースで歩みを進めています。
 様々な工夫された取り組みは、すべての人々にとって生きやすい社会の創生に大きな貢献となるでしょう。

  

※小・中学校における長期欠席者数は287,747人(前年度252,825人)。
このうち不登校によるものは196,127人 (前年度181,272人)、
新型コロナウイルスの感染回避によるものは20,905人となっている。 
文部科学省 令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要より

※チューター……生徒の学習をサポートする存在

お月見

  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

2022年 8月

 日々の生活の中で幸せを感じるということは大切なことです。幸せを感じるということは生活の中に喜びや安心や感謝がいっぱいあるのでしょう。逆に不幸せに感じるのは不満や不安なことがいっぱいあるからなのでしょう。
 私たちは不足や失うことには敏感ですが、すでに有るものには「有って当たり前」になり、そこに喜びも感謝もなかなか生まれてきません。本当は喜ばなければいけないこと、感謝しなければならないことは身の回りにいっぱい有るのに見えなくなっているのです。失ったときに初めてその大切さに気付かされるのでしょう。
 平和も自由もエネルギーも水も食料も、そして一番大切な命も。すべての恵みを喜び、感謝し、幸せを感じる日々を送りましょう。

紫陽花

  
  
  
  
  
  
  
  
  

2022年 7月


 古来日本人は亡き人々を尊び、お墓を守り、お墓参りを大切にしてきました。これまで日本では、家族や血縁者がひとつのお墓に埋葬され、代々引き継いでいく「家墓」が中心でした。しかし、高度成長期の産業構造の変化により若者は仕事を求めて都市部へ移り、核家族化が進みました。いわゆる「家業」というものがなくなり、地方産業の衰退や人口の減少は、家やお墓の継承・存続を困難にしました。時代とともに社会全体の構造や個々の考え方・価値観が変化し、人々の生き方が多様化する中、墓所やご供養に対する考え方やカタチも変わってきました。
 昔の霊園や墓地といえば古い墓石や塔婆が立ち並び、難しいしきたりがあって重苦しく、近寄りがたい印象だったかもしれません。現代では、四季折々の草花や緑で美しく整備された自然公園のような霊園や交通の便が良い都会的な墓所が人気を集めているようです。日々の生活圏にあり、より身近にいつでもお参りできる納骨堂もその中のひとつです。墓所は受け継ぎ、守るものからライフスタイルに合わせて選ぶものに変わりつつあります。

 いつでも気軽に訪れることができる駅近にあり、永久納骨・永代供養でずっと安心が続く正善寺 岡山の納骨堂は、このたび1階新区画に美しい瑠璃色に輝く納骨壇を新設し、より明るく開放的な納骨堂にリニューアルいたしました。7月1日よりリニューアル見学会も開催しております。

 個人化の進む社会だからこそ大切な人と繋がり、向き合う時間はとても大切です。喜びを伝え、苦悩を分かち合い、安らぎの時間を共有できる。いつでも気軽に訪れることができる。居心地が良く、あんしんがずっとつながる。そんな墓所を守り続けたいと思います。

紫陽花

  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

2022年 6月

 信託銀行に勤めていたMさんは、仏教に興味があり通信教育でその教えを学んでいました。尊敬する方のすすめもあり得度し僧侶になりました。僧侶になると人生の相談を受ける機会が増えたそうです。信託銀行時代にも実に多くの人々から人生設計の相談をいただいたそうです。お客様のためになるだろうことを懸命に考え、信頼に応え、そして多くの「ありがとう」という言葉をいただきました。が、その関係性はあくまでビジネス上のものであり、その先は収益や契約につながるものでした。
 しかし、僧侶として受ける相談は様々な悩み事の相談で、そこにはビジネスライクなものは一切ありません。ただ話を聞くだけでいい場合や他の人には絶対言えないような話もあります。相談が終わると「ありがとう」とお礼の言葉をいただきます。その「ありがとう」は信託銀行時代のありがとうの響きとは違うそうです。それは心のそこからの「ありがとう」だと話されました。
 確かに僧侶は相談を受けることが多い。私自身もそうです。そういった場をもっと丁寧に、そして相手に寄り添いお話を聞かせていただかねばと大切なことに気付かされました。

紫陽花

  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

2022年 5月

 4月29日・日本武道館 体重無差別で柔道日本一を競う全日本選手権で優勝したのは斉藤立さん20歳でした。2015年54歳で亡くなった斉藤仁さんの次男です。父親の仁さんは五輪2連覇を達成した誰もが知る偉大な柔道選手でした。立さんも父の姿を追い懸命に精進しました。
 なれない優勝インタビュー。熱戦冷めやらぬ中、荒い息づかいで彼は今日まで自分を支えてくれた母、兄、祖母、先生ら多くの人々への感謝を唯々述べました。壇上から降りた立さんは母としっかり抱き合いしばし涙しました。マイクが拾ったのは母の「ありがとう、ありがとう」の声だけでした。

こいのぼり

  
  
  
  
  
  
  

2022年 4月

 未だコロナウィルスへの恐怖や不安が治まらない中、ロシアのウクライナへの軍事侵攻で大切な命、そして生活が奪われていきます。どうすることもできずただただ無力感だけが残ります。世界規模の出来事に対し私たち一人一人は何をすることも関わることもできません。しかし、すべてを諦めるのではなく自分が生きている社会の中や自分の身の回りの中で何かできることが必ずあるはずです。それを見つけできることから始めることで、きっと平和で幸せで楽しい世界をそして未来を作り出していけると信じたいものです。
 正善寺においても5月21日・22日に岡山分院の多目的ホール竣工、納骨堂リニューアルに伴い見学会・説明会を行います。心和む素敵なミニコンサート(フルート・バイオリン・ピアノ)を行う予定です。新緑の五月晴れの中、皆様の明るい笑顔が集うことを楽しみにしています。

卯月桜

  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

2022年 3月

 ウクライナの悲惨な戦禍の様子は東日本大震災の時に見た、町がそして大切な命がなすすべもなく奪われていく光景を彷彿とさせます。一刻も早く平和が訪れることをただただ願うばかりです。
 仏教は幸せを求めるというより苦しみを無くすことに視点を起きます。苦しみの原因は「無明」にあります。思い通りにならない、ああしたい、こうありたい…しかしかなえられない。生老病死・愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦。すべては執着する心から生まれます。執着から離れることにより、苦しみから離れることができるのです。権力に、支配力に執着する愚かな行為により多くの尊い命や生活が破壊されていきます。世界中が悲しみの中にあります。
 私自身、今何もすることができず悔しい思いでいっぱいです。本当にすみません。正善寺としてできることを必ず考え行動します。

弥生ひな祭り

  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

2022年 2月

 コロナもあっていろいろな面でうまくいっていない人が増えました。それは経済的や物理的なことはもちろんですが、精神的な落ち込みが大きく影響しているように思います。私たちは1日に6万回思考するそうです。通常その中の80%はネガティブな思考で、残りの20%がポジティブな思考だそうです。元気で明るく生きている人にその秘訣はと聞くと「余計なことは考えない」とか「身体をよく動かす」とか「よく眠る」とかネガティブな思考の時間を少なくするような回答が返ってきます。ある意味鈍感になることも大切なのかも知れません。
 『安心立命』という言葉があります。安心は仏教の語、立命は儒教の語です。安らかで穏やかな落ち着いた心であるがままそのままの生命を生きていきましょうという意味です。
 幸せとか不幸せとか安心とか不安とか…実は自分自身の心が決めているのかも知れません。こういうときだからこそポジティブに新しいことに挑戦してみてはどうでしょうか。オンラインセミナーで学んだり観葉植物を育てたり、子供にかえってプラモデルを作ったり。毎日をポジティブに楽しみましょう!

如月豆まき

  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

2022年 1月

あけましておめでとうございます

 私たちひとりひとりには、それぞれの苦しみや悩みがあります。それは住む国、地域、環境、そして年齢、性別など様々な要素や条件によってすべてが異なります。COVID-19は全世界すべての人々に共通の恐怖と困難をもたらしました。
 2年間の戦いの末、ワクチン開発そして接種が進み、世界は集団免疫を獲得し安心して生活できる社会が戻りつつあると思われました。しかし、オミクロン株の拡大にともないその日は先延ばしになりました。いずれにしても、今後も変異株の出現に対応する日々がしばらく続くと思われます。
 この2年間、人と人が会うこと・集まることが制限され、精神的につらい日々を余儀なくされる方々が増え、つながることの大切さを心底教えられました。正善寺でも多くの人が集まる行事はすべて行えませんでした。
 新しい年を迎え、安全を確認しつつ行事も順次再開していきたいと思っています。正善寺ではハード面において新たな寺業が2件スタートします。そして、ソフト面においてもすべての門信徒とつながるため、また新たなご縁を広めるためデジタル化を進めていきます。
 本年もよろしくお願い申し上げます。

睦月鏡餅